こんにちは。風読珈琲店のカエデと申します。
本日は、朝井リョウの小説『何者』をご紹介いたします。
舞台は就職活動中の大学生。SNSの投稿内容が随所に散りばめられ、面と向かって話せないことを虚空にぶつける歪んだ承認欲求が見どころです。10年以上前の作品ながら、全く古さを感じません。
本記事が、生活を彩る新たな一冊と出会うきっかけとなれば幸いです。
作品情報
- 書名:何者
- 著者:朝井リョウ
- 出版:2012/11/30
- ページ数:286
公式紹介文
就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから――。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作
レビュー
就職活動が浮き彫りにする人間の醜さ
大学生は、高校生より自由なようで、どこか不安定。
あんなに多種多様な髪色、衣服を纏っていた若者が、皆黒染めして、スーツを着る。
それに嫌気がさしたのか、「就活なんて」という自己表現をする者もいる。
いつからか俺たちは、短い言葉で自分を表現しなければならなくなった。フェイスブックやブログのトップページでは、わかりやすく、かつ簡潔に。Twitterでは140字以内で。就活の面接ではまずキーワードから。
『何者』p.52より
400字で伝えるガクチカ、自己PR。
140字で伝えるツイート。
/(スラッシュ)で区切って綴るSNSのプロフィール。
本当はそれだけで人の属性なんてわかるはずがない。
それでも、自分が何者なのか、人は言葉で伝え続ける必要があります。
想像力が足りない人ほど、他人に想像力を求める。他の人間とは違う自分を、誰かに想像してほしくてたまらないのだ。
『何者』p.52より
面接を次々に突破する高い友人を羨んでも、
強いガクチカをアピールする友人を痛いと感じても
自分は自分のはずなのに―――。
自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。
『何者』p.249より
わざわざ書き起こしてほしくないような、人間の醜さ、不安定さにフォーカスした作品です。
関連作品の紹介
『何様』朝井リョウ
『何者』スピンオフ作品。
『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成
就職活動を舞台にしたミステリ作品。2022年本屋大賞ノミネート作。