こんにちは。風読珈琲店のカエデと申します。
今回は、朝井リョウさんの直木賞受賞作『何者』をご紹介します。
本作は、就職活動中の大学生たちの人間関係とSNSに潜む承認欲求を描いた青春小説。
2012年の刊行ながら、現代の若者にも刺さるテーマが満載で、今なお色褪せない一冊です。
作品情報
- 書名:何者
- 著者:朝井リョウ
- 出版:新潮社 2012/11/30
- ページ数:286
- ジャンル:青春小説/社会派小説/就活文学
あらすじ|就活とSNSが交差する青春群像劇
主人公・拓人は、同居人の光太郎の引退ライブに足を運ぶ。
そこには、元恋人の瑞月、彼女の留学仲間・理香、そして理香の恋人・隆良も集まっていた。
5人は就職活動をきっかけに、同じアパートで対策会を開くようになる。
しかし、SNSでの発言や面接での言葉の裏に潜む“本音”や“自意識”が、次第に彼らの関係を揺るがしていく――。
見どころ①|SNSが映し出す“承認欲求”
本作の大きな特徴は、SNSの投稿が物語に組み込まれている点です。
TwitterやFacebook、ブログなど、現代の若者が使うツールを通して、彼らの本音が浮き彫りになります。
いつからか俺たちは、短い言葉で自分を表現しなければならなくなった。フェイスブックやブログのトップページでは、わかりやすく、かつ簡潔に。Twitterでは140字以内で。就活の面接ではまずキーワードから。
『何者』p.52より
400字で伝えるガクチカ、自己PR。140字で伝えるツイート。/(スラッシュ)で区切って綴るSNSのプロフィール。
本当はそれだけで人の属性なんてわかるはずがない。それでも、自分が何者なのか、人は言葉で伝え続ける必要があります。
見どころ②|“想像力”の欠如が生む孤独
他人に理解されたい。違う自分を見てほしい。
そんな欲望が、SNSという“虚空”に向かって発信される。
現代の孤独と承認欲求の構造を、朝井リョウは鋭く描いています。
想像力が足りない人ほど、他人に想像力を求める。他の人間とは違う自分を、誰かに想像してほしくてたまらないのだ。
『何者』p.52より
見どころ③|就活が暴く“自分らしさ”の矛盾
自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。
『何者』p.249より
面接を次々に突破する高い友人を羨んでも、
強いガクチカをアピールする友人を痛いと感じても
自分は自分のはずなのに―――。
就職活動は、自己分析と他者比較の連続。
本作では、自分を売り込むことの痛みと、他人への嫉妬や劣等感が赤裸々に描かれています。
面接を突破する友人を羨み、SNSでの発信に違和感を覚えながらも、
自分もまた“何者か”になろうともがく姿は、就活経験者なら誰もが共感できるはずです。
まとめ|『何者』は“自分探し”の痛みを描いた青春文学
『何者』は、就活という人生の転機を通して、自分とは何か、他人とは何かを問い直す作品です。
わざわざ書き起こしてほしくないような、人間の醜さ、不安定さにフォーカスした作品ですが、
- 就活を終えた学生
- SNSとの付き合い方に迷っている人
- 自意識や承認欲求に向き合いたい人
そんな方に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
関連作品の紹介
『何様』朝井リョウ
『何者』スピンオフ作品。
『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成
就職活動を舞台にしたミステリ作品。2022年本屋大賞ノミネート作。