こんにちは。風読珈琲店のカエデと申します。
逢坂冬馬さんのデビュー作にして2022年本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』をご紹介します。
第二次世界大戦下のソ連を舞台に、女性狙撃兵として戦場に立つ少女たちの姿を描いた本作は、戦争の残酷さと人間の尊厳、そして女性としての葛藤が交錯する、重厚な歴史小説です。
作品情報
- 書名:同志少女よ、敵を撃て
- 著者:逢坂冬馬
- 出版:早川書房 2021/11/17
- ページ数:496
- ジャンル:歴史小説/戦争文学/フェミニズム文学
公式紹介文
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?
あらすじ
物語の主人公は、モスクワ近郊の農村に暮らす少女・セラフィマ。
1942年、ドイツ軍の急襲によって母親を含む村人たちが惨殺され、彼女の日常は一瞬で崩壊します。
命の危機に瀕したセラフィマを救ったのは、赤軍の女性兵士・イリーナ。
「戦いたいか、死にたいか」――その問いに、セラフィマは狙撃兵として生きる道を選びます。
復讐心を胸に、訓練学校で仲間たちとともに過酷な訓練を重ね、やがて彼女はスターリングラードの最前線へと向かうことになります。
見どころ①|女性兵士の存在と葛藤
「戦いたいか、死にたいか」
『同志少女よ、敵を撃て』p.35「第1章 イワノフスカヤ村」より
本作が描くのは、単なる戦争の物語ではありません。
女性が兵士として戦うことの意味、そしてその存在が歴史の中でどのように扱われてきたかに鋭く切り込んでいます。
女性も男性と同じく国家に心身を、生命を捧げることができる。国家としてのソ連へ立派に貢献することで国力を上昇させ、そこで価値を認められ女性は輝くことができる。
『同志少女よ、敵を撃て』p.109「第2章 魔女の巣」より
戦時下の女性は、しばしば“銃後”の存在として描かれてきました。
しかし、セラフィマたちは前線で戦い、命を懸けて仲間を守ります。
その姿は、ジェンダーの固定観念を打ち破る力強さに満ちています。
見どころ②|“敵”とは誰か?
セラフィマが狙う敵は、母を殺したドイツ兵だけではありません。
戦場で彼女が直面するのは、国家の論理、軍の規律、そして人間の本性です。
今の私は兵士だ。猟師ではない。そうだ。仲間を守り、女性を守り、復讐を果たすために、自分はフリッツを殺すのだ。
『同志少女よ、敵を撃て』p.192「第3章 ウラヌス大作戦」より
戦争の中で、何が正義で、何が敵なのか。
その問いに、セラフィマは自らの手で答えを見つけていきます。
見どころ③|友情と連帯の力
極限状態の中で育まれる、女性兵士たちの友情と連帯も本作の大きな魅力です。
恐怖や怒り、喜びを共有することで、彼女たちは“仲間”になっていきます。
兵士たちは恐怖も喜びも、同じ経験を共有することで仲間となるんだ。……部隊で女を犯そうとなったときに、それは戦争犯罪だと言う奴がいれば間違いなくつまはじきにされる。
『同志少女よ、敵を撃て』p.352「第5章 決戦に向かう日々」より
その絆は、戦場という過酷な環境の中でこそ、より強く、深く結ばれていきます。
まとめ
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』は、戦争文学としての迫力だけでなく、女性の生き方や社会の構造に対する鋭い問いを含んだ作品です。
- 歴史小説が好きな方
- フェミニズムやジェンダーに関心がある方
- 人間ドラマとしての戦争を読みたい方
そんな方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
関連作品の紹介
『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ
第二次世界大戦中、戦場に立った女性たちのルポルタージュ。女性兵士が注目を浴び始めた契機。
『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』大木毅
独ソ戦の流れを詳述した一冊。2020年新書大賞受賞作品。