こんにちは。風読珈琲店のカエデです。
9月に入ると、京都の美術館では秋のシーズンに向けた特別展が続々とスタートします。今回ご紹介するのは、京都・東山にある泉屋博古館(せんおくはくこかん)で2026年9月5日から始まる「寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと」。江戸時代初期、後水尾天皇が二条城に迎えられた「寛永行幸」という一大イベントからちょうど400年の節目に、当時の宮廷文化を彩った人々の美と交流をたどる展覧会です。
歴史の教科書ではさらっと触れられるだけの出来事でも、実際の屏風絵や衣装、和歌の懐紙といった「モノ」を通して見ると、驚くほど鮮やかに当時の空気が伝わってきます。会期・見どころ・アクセス情報まで、一次情報をもとにまとめました。
会場となる泉屋博古館は、住友家が蒐集した中国古代青銅器や日本近代絵画などのコレクションで知られる私立美術館です。京都・鹿ヶ谷という落ち着いたエリアに本館を構え、東京・六本木にも分館があります。普段は青銅器や近代絵画の展示が中心の館ですが、今回は「行幸400年」という節目のテーマに合わせて、館の所蔵品と外部からの出品作を組み合わせた特別展を企画しています。歴史好き・美術好きどちらの視点からも楽しめる構成になっていそうです。
寛永行幸とは? 400年前の京都を揺るがした一大イベント

寛永3年(1626年)、後水尾天皇が二条城に行幸(天皇が外出すること)したのが「寛永行幸」です。江戸幕府が威信をかけて迎えたこの行幸には、天皇の中宮(きさき)であり徳川2代将軍・秀忠の娘でもあった東福門院(とうふくもんいん)和子(まさこ)も同席しました。公家と武家、朝廷と幕府という二つの世界が正式に結びついた象徴的な出来事として、当時の京都文化に大きな影響を与えたとされています。
本展はこの行幸から400年という節目に合わせて企画された特別展です。行幸そのものの様子だけでなく、東福門院や後水尾天皇の周囲に集まった文化人たちが生み出した「寛永文化」全体にスポットを当てているのが大きな特徴です。
行幸そのものは、記録によれば5日間にもわたる大規模な宮中行事だったとされ、二条城には能や和歌の会、贈答品のやり取りなど、朝廷と幕府がそれぞれの威信を示し合う多彩な催しが用意されました。江戸幕府としては、成立から日が浅い政権の正統性を朝廷との結びつきによって世に示す狙いがあったとも言われています。一方の朝廷にとっても、皇室と摂関家・武家との関係を再確認する重要な機会でした。単なる「表敬訪問」ではなく、政治的な意味合いを強く帯びたイベントだったからこそ、後世まで屏風や記録に残されたのでしょう。
こうした背景を知ったうえで本展の出品作を見ると、単なる「美しい絵」以上の読み解き方ができるようになります。誰がどこに描かれているか、どんな衣装をまとっているか、行列の順序にはどんな意味があるのか。400年前の「政治と文化が交差する現場」を、絵画資料から追体験できるのが、本展のいちばんの醍醐味だと感じました。
展覧会の基本情報
まずは会期や会場など、来場前に押さえておきたい基本情報をまとめます。
- 展覧会名:寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと
- 会期:2026年9月5日(土)~10月18日(日)
- 会場:泉屋博古館(京都市左京区鹿ヶ谷、京都東山エリア)
- 開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
- 休館日:月曜日(9月21日・10月12日は開館)、9月24日(木)、10月13日(火)
- 観覧料:一般1,200円(団体1,000円)、学生800円(団体700円)、18歳以下は無料
- 主催:公益財団法人泉屋博古館、読売新聞社、京都新聞
7月24日~9月4日まではオンライン前売券(一般1,000円・学生700円)も販売されていました。会期が始まってからは当日券での入場となるため、最新の販売状況は公式サイトで確認するのがおすすめです。


見どころ①「二条城行幸図屏風」を徹底解剖

本展最大の見どころは、泉屋博古館が所蔵する京都市指定文化財「二条城行幸図屏風」(左右一双)です。寛永行幸四百年祭のキービジュアルにも採用されているこの屏風には、二条城に集った公家・武家の様子が細部まで描き込まれています。展覧会では、この屏風を単に「飾って見せる」だけでなく、描かれた人物や行列の構成を丁寧に読み解く「徹底解剖」形式で紹介するとのことです。
あわせて、東福門院の肖像を描いた「東福門院像」(京都市指定文化財)や、京都府指定文化財の「東福門院御料 唐衣表着(からぎぬうわぎ)」など、行幸を彩った本人ゆかりの品々も出品されます。屏風絵と本人の肖像・衣装をあわせて見られる機会は貴重で、歴史の授業では得られない立体的な理解につながりそうです。
屏風絵というジャンルは、写真のない時代の「記録メディア」でもありました。行事の参加者や配置を後世に伝えるために、絵師たちは細部まで人物の表情や装束の柄を描き分けています。「二条城行幸図屏風」も例外ではなく、公家と武家それぞれの装いの違い、随行する人々の役割分担などが丁寧に描き込まれているといいます。展示室でじっくり近づいて見ると、教科書の図版だけでは気づけないディテールに出会えるはずです。単眼鏡(オペラグラス)を持参すると、細部の書き込みまでより楽しめそうです。
見どころ②東福門院と、寛永文化を彩った人々

東福門院は、単なる「天皇の妻」にとどまらず、押絵(布地を貼り合わせて絵柄を表現する技法)などの創作活動を通じて自らも文化を発信した人物として知られています。本展では、東福門院自身の押絵作品群のほか、後水尾天皇が詠んだ和歌の懐紙、茶人としても名高い小堀遠州、陶芸家の野々村仁清による「鶏撮丸香炉」など、寛永期を代表する文化人ゆかりの品々が一堂に会します。
公家・武家・茶人・陶芸家といった立場の異なる人々が、行幸という一つの出来事をきっかけにどのようにつながっていたのか。「寛永文化」というキーワードで人と作品の交流を俯瞰できるのが、本展のもう一つの魅力です。
東福門院は徳川将軍家の娘という出自から、皇室と武家をつなぐ「政略結婚」の当事者として語られることが多い人物です。しかし本展で紹介される押絵作品を見ると、単に政治的な役割を担っただけの存在ではなく、自ら手を動かして文化を発信していた一人の作り手でもあったことがうかがえます。布地を組み合わせて花鳥や人物を表現する押絵は、現代でいう立体的なコラージュ作品に近い感覚で楽しめる工芸です。当時の宮廷女性がどのような美意識を持ち、何を「美しい」と感じていたのかを想像しながら鑑賞すると、より深く作品世界に入り込めそうです。
また、後水尾天皇自身も歌人・文化人として知られた人物で、和歌懐紙からはその筆致や言葉選びを直接感じ取ることができます。小堀遠州は茶人・作庭家として桂離宮の作庭にも関わったとされる人物、野々村仁清は色絵陶器の完成者として知られる京焼の名工です。それぞれ専門分野は異なりますが、寛永期の京都という同じ舞台の上で活動し、互いに影響を与え合っていました。展示を通してその「人のつながり」を意識しながら見ると、一枚の絵や一つの器の背景にある物語がより立体的に見えてくるはずです。
関連イベントとアクセス情報

会期中は、展示を深く楽しめる関連イベントも予定されています。
- 現地ツアー(9月6日):二条城の学芸員とともに古都をめぐる
- 記念講演会(9月22日):久保貴子氏による、寛永期の天皇と皇后についての講演
- シリーズ講座(9月20日~10月4日):服飾史・絵画史・歴史学それぞれの視点から屏風を読み解く
- スライドトーク(9月17日・30日):学芸部長による展示品解説
会場の泉屋博古館は京都・東山の鹿ヶ谷エリアにあり、周辺には南禅寺や哲学の道など、秋に散策したくなるスポットも多いエリアです。展示鑑賞とあわせて、紅葉が色づき始める頃の京都さんぽも楽しめそうです。最新情報は公式サイトや公式SNSでの発信をこまめにチェックしておくと安心です。
会期は9月5日から10月18日までの約1カ月半。前半は残暑が続く時期ですが、後半に差しかかる頃には京都も少しずつ秋の気配を感じられるようになります。会期の後半は紅葉シーズンの入り口とも重なるため、参拝や散策とセットで計画すると一石二鳥です。休館日(月曜日、9月24日、10月13日)と開館時間(10時~17時、入館は16時30分まで)は事前にチェックしたうえで、余裕を持ったスケジュールで訪れることをおすすめします。
また、講演会やスライドトークなどの関連イベントは日時が限られているうえ、事前申込制になっている可能性もあります。参加を検討する場合は、展示鑑賞のタイミングとあわせて公式サイトの最新情報をこまめに確認しておくとよさそうです。


まとめ
「寛永行幸と花の都の文化びと」展は、400年前の一つの行幸をきっかけに花開いた宮廷文化を、屏風・肖像・衣装・工芸品というモノを通じて立体的に見せてくれる展覧会です。ポイントをまとめます。
- 会期は2026年9月5日(土)~10月18日(日)、会場は京都・泉屋博古館
- 最大の見どころは京都市指定文化財「二条城行幸図屏風」の徹底解剖展示
- 東福門院ゆかりの衣装・押絵や、小堀遠州・野々村仁清らの作品もあわせて紹介
- 現地ツアーや記念講演会など、会期中の関連イベントも充実
歴史の教科書の1ページが、こうして「見て触れられる美術展」になると、いつもの京都散策がまた違った視点で楽しめそうです。紅葉シーズンの前に、少し早めの秋の京都を訪れてみてはいかがでしょうか。

