こんにちは。風読珈琲店のカエデです。
滋賀県立美術館で、2026年9月11日から特別展「丸木スマ展 73歳からのアーティスト」が開かれています。
丸木スマ(まるき すま、1875〜1956)は、73歳ではじめて絵筆をとり、亡くなるまでのわずか9年間で700点以上を描いた画家です。専門的な美術教育を受けないまま、身近な花や動物を生き生きと描き、70代半ばで画壇にデビューしました。その作品と生涯を、約130点でたどる展覧会です。会期・見どころ・楽しみ方をまとめました。
展覧会の基本情報

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会期 | 2026年9月11日(金)〜11月23日(月・祝) |
| 会場 | 滋賀県立美術館 展示室3(大津市・びわこ文化公園内) |
| 開館時間 | 9:30〜17:00(入場は16:30まで) |
| 休館日 | 月曜日(祝休日の場合は開館し、翌平日休館) |
| 観覧料 | 一般1,200円/高校・大学生800円/小・中学生600円/未就学児無料 |
| 主催 | 滋賀県立美術館、京都新聞(特別協力:原爆の図丸木美術館) |
| 出品点数 | 約130点 |
滋賀県立美術館は2021年にリニューアルし、「リビングルームのような美術館」をコンセプトに、ソファやテーブルを置いたラウンジ、開放的なエントランスなど、ゆったりくつろげる空間づくりで知られています。京都駅からJRで約20分の大津エリアにあり、京都・大阪からの日帰りにちょうどいい距離です。特別展の半券で当日の常設展示も観られるので、時間に余裕をもって出かけるのがおすすめです。

丸木スマとは──73歳から描き始めた人

丸木スマは1875年、広島県に生まれました。農家に嫁ぎ、子育てと畑仕事に追われる生活を送ります。絵とは無縁の70年余りでした。
- 1945年:広島で被爆(爆心地から約2.5km)。翌年、夫と死別する
- 1948年(73歳):画家である長男・丸木位里と、その妻で洋画家の丸木俊(赤松俊子)のすすめで、はじめて絵筆をとる
- 1950年以降:女流画家協会展、再興日本美術院展などに次々と入選。専門教育を受けていない高齢の女性の画壇デビューは、当時の美術界に衝撃を与えた
- 1956年:81歳で死去。制作期間はわずか9年、残した作品は700点以上
「絵を描くのに、遅すぎるということはない」——スマの歩みそのものが、そう語りかけてきます。
作品の魅力

スマが描いたのは、特別な題材ではありません。庭先の草花、飼っていた猫や鶏、川の魚、畑の野菜。長い年月ずっとそばにあったものたちです。
- 色と線の勢い:お手本や様式にとらわれない、のびのびとした筆づかい。生き物の“動き”そのものが画面に写しとられている
- 画面いっぱいの生命感:草も虫も魚も、余白を埋めるように増殖していく。見ていると元気が出る、と評されることが多い
- 素朴派(ナイーブアート)との共通点:アンリ・ルソーらと同じく、独学の作家ならではの強さと自由がある。日本の「素朴派」を代表する一人
技術的な巧拙を超えて、「描かずにはいられなかった」熱量が伝わってくる。そこがスマの絵の核心です。初期には家族や身近な人の肖像も多く、年を追うごとに草木や生き物へと関心が広がり、晩年には画面が植物や虫でびっしりと埋め尽くされていきます。9年という短い画業のなかにも、はっきりとした変化と深まりがあります。
素朴派とは──独学の画家たちの系譜
丸木スマは、しばしば「日本の素朴派(ナイーブアート)」を代表する画家として紹介されます。素朴派とは、美術学校で正規の訓練を受けず、独自のやり方で描き続けた画家たちのゆるやかな総称です。
- アンリ・ルソー(フランス):税関の職員をしながら日曜画家として描き、のちにピカソらに評価された。素朴派の代表格
- グランマ・モーゼス(アメリカ):農婦として暮らし、76歳から本格的に絵を描き始めて国民的人気画家に。スマと重なる歩み
- 山下清(日本):放浪しながら貼り絵を制作。独学の目が捉えた風景で知られる
共通するのは、「うまく描く」ためのルールから自由なぶん、対象を見る目と手の勢いがまっすぐ画面に出ること。スマの絵の力強さも、この系譜の中に置くと理解しやすくなります。展覧会では、そうした独学の画家ならではの魅力を、初期から晩年への変化とともに見ることができます。
「原爆の図」との関わり
スマの長男・丸木位里と、妻の丸木俊は、共同制作の連作《原爆の図》で世界的に知られる画家です。夫妻は埼玉県東松山市に「原爆の図丸木美術館」を開き、戦争や公害、原発事故など、時代の惨禍を描き続けました。
スマ自身も被爆者であり、《原爆の図》のいくつかの場面には、位里・俊がスマから聞いた話や、スマが描いた人物・動物のイメージが反映されているといわれます。今回の展覧会に原爆の図丸木美術館が特別協力しているのは、こうしたつながりからです。
※原爆の図丸木美術館は現在、全館改修のため長期休館中(2027年に開館60周年記念のリニューアルオープン予定)です。

丸木位里・丸木俊という画家
スマを絵の世界に導いた長男夫妻についても、少し知っておくと展示がより立体的に見えてきます。
- 丸木位里(1901〜1995):スマの長男。水墨画を出発点にした画家で、墨のにじみと余白を大胆に使う画風
- 丸木俊(赤松俊子、1912〜2000):北海道出身の洋画家。油彩・デッサンに強く、絵本の仕事も多い。位里と結婚し、共同制作へ
- 《原爆の図》:1950年から約32年かけて描かれた全15部の大連作。夫妻はそれぞれの得意(墨と絵具、群像とディテール)を持ち寄って一枚の画面をつくった
- その後の共同制作:《南京大虐殺の図》《アウシュビッツの図》《水俣の図》など、国内外の惨禍をテーマに描き続けた
性格も画風も違う3人が、広島という土地と戦争の記憶でつながっている——その関係のなかに、73歳のスマの絵はあります。
展示構成と楽しみ方
展示は、作品そのものの魅力から、それを支えた人々、そして戦争という背景へと視点を広げていく構成です。
- 生命力あふれる作品の世界:初期から晩年までの代表作でスマの画業をたどる
- スマを支えた人々と美術界:位里・俊をはじめ、同時代の作家や批評家との関わり
- 被爆と夫の死という背景:73歳からの創作が何の上に成り立っていたのかを見つめる
- 子ども向けワークショップコーナー「絵は誰でも描ける」:手を動かして楽しめる参加型スペース
会期中は学芸員によるギャラリートーク(9/19・10/15・11/14ほか)や、原爆の図丸木美術館学芸員・岡村幸宣氏らの講演会(9/26・10/10)も予定されています。日程は公式サイトで確認できます。

「73歳から」というメッセージ
この展覧会がいま多くの人の心に響くのは、作品の力に加えて、「始めるのに遅すぎることはない」というスマの生き方があるからだと思います。
何かを始めたいけれど年齢や経験を言い訳にしてしまう——そんなとき、70歳を過ぎて絵筆をとり、9年で700点を描いた人がいたという事実は、静かに背中を押してくれます。20代でも、50代でも、遅いということはない。スマの絵の前に立つと、そう思えます。
スマ自身は「上手に描こう」とは考えていなかったようです。目の前の花や生き物を、感じたとおりに、ただ描く。その素直さが9年間途切れなかったことが、700点という数字の正体なのだと思います。結果ではなく、続けることそのものに意味があった——そんな読み方もできる展覧会です。

会場:滋賀県立美術館へのアクセス
滋賀県立美術館は、大津市のびわこ文化公園のなかにあります。文化ゾーンとして図書館や埋蔵文化財センターが隣接し、園内の散策も気持ちのいい場所です。
- 電車+バス:JR琵琶湖線「瀬田」駅から近江バスで約10分、「滋賀県立美術館前」下車すぐ。京都駅からは瀬田駅までJRで約20分
- 車:名神高速「瀬田西IC」「瀬田東IC」から約10分。無料駐車場あり
- あわせて回れる場所:びわこ文化公園、少し足をのばして石山寺(紫式部ゆかり)、瀬田川沿いの散歩道
展示室3での開催なので、常設展示室(小倉遊亀や現代美術のコレクション)とあわせても2時間ほど。ゆったり観たい人はカフェのある1階でひと休みする時間も見ておくとよいでしょう。
あわせて楽しみたい滋賀・関西の美術館
滋賀は京都・大阪から日帰りしやすく、この秋は見どころが揃っています。
- MIHO MUSEUM(甲賀市信楽町):「百済寺の秘仏」など。I.M.ペイ設計の山中の美術館で、建築も含めた体験が魅力
- 滋賀県立美術館の常設展:小倉遊亀や日本画、現代美術のコレクション。特別展とセットで観ると一日楽しめる
- 大津・琵琶湖畔の散策:美術館のあるびわこ文化公園から、少し足をのばせば琵琶湖や近江神宮も

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まとめ
- 「丸木スマ展 73歳からのアーティスト」は滋賀県立美術館で2026年9月11日〜11月23日
- 丸木スマ(1875〜1956)は73歳から絵を描き始め、9年で700点以上を残した独学の画家。日本の素朴派を代表する一人
- 身近な草花・生き物を、様式にとらわれない勢いのある筆で描いた。約130点を展示
- 長男・丸木位里、その妻・俊の《原爆の図》とのつながりも紹介(原爆の図丸木美術館が特別協力)
- 一般1,200円、月曜休館。子ども向けワークショップや講演会・ギャラリートークも充実
「絵は誰でも描ける」。展覧会のワークショップに掲げられたこの言葉を、スマの絵は一枚一枚で証明しています。秋の滋賀で、73歳から花開いた生命力に会いに行ってみてください。
※会期・料金・開館情報・関連イベントは2026年9月時点で滋賀県立美術館の公表内容を確認したものです。最新情報は公式サイトでご確認ください。

