こんにちは。風読珈琲店のカエデです。
今回紹介するのは、2026年9月10日(木)発売の講談社学術文庫4冊。イスラームの聖典クルアーンの入門書、「ローマのソクラテス」と呼ばれた哲学者の本邦初訳、法学と文化人類学から所有権の起源を探る一冊、そして競馬の世界史と、宗教・哲学・法学・歴史がそろった幅広いラインナップです。講談社の公式内容紹介をもとにまとめました。
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2026年9月の講談社学術文庫 新刊ラインナップ一覧
まずは4冊の全体像から。発売日はいずれも2026年9月10日、価格は税込の定価です。
- クルアーンの世界:語りかけるイスラーム(小杉泰 著/320ページ/1,540円)
- ムソニウス・ルフス言行録(ムソニウス・ルフス 著、川本愛・近藤智彦 訳/208ページ/1,210円)
- 所有権の誕生(加藤雅信 著/216ページ/1,210円)
- 競馬の世界史:欲望と文明のビッグレース(本村凌二 著/320ページ/1,540円)
このうち『ムソニウス・ルフス言行録』は文庫のための新訳(本邦初訳)、残りの3冊は単行本・新書からの文庫化です。特に『競馬の世界史』は、中公新書版に最近10年あまりの動向を大幅に増補した改訂版になっています。
翌月、10月の講談社学術文庫の新刊はこちらにまとめています。

『クルアーンの世界』小杉泰|「読め!」から始まった聖典の旅路

イスラーム学の第一人者・小杉泰さんによる、クルアーン(コーラン)の入門書です。原本は2009年に岩波書店から刊行された本で、学術文庫版では参考文献とあとがきが新たに加わっています。
クルアーンという名前は「誦(よ)まれるもの」という意味。公式紹介によると、ムハンマドに断続的にもたらされた啓示を集めたもので、内容が完成した段階ではまだ書物の形をもっていなかったという珍しい成り立ちをしています。本質的に「書物」であるキリスト教の聖書に対し、クルアーンはまず「朗誦」されるもの。しかも20世紀に入るまでは、他言語への翻訳どころか活版印刷さえ拒んできたというのは、知らなかった事実でした。
本書は二部構成で、第1部では「神の語り」がどのように正典としてまとめられ、写本や印刷を経て現代に生きる聖典になったかをたどり、第2部ではムハンマドの生き方、預言者の町マディーナ、イスラーム法や信仰儀礼など、章句が描く人間観・社会観を読み解きます。世界人口のおよそ4分の1を占めるムスリムの価値観を知ることは、ニュースを読み解くうえでも大事な教養だと感じます。
- こんな人に:イスラームについて基礎から知りたい人、宗教と社会の関係に関心がある人
- 読みどころ:「朗誦される聖典」が書物になるまでのドラマ
『ムソニウス・ルフス言行録』|「ローマのソクラテス」本邦初訳

ストア派の哲学者といえば、セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウスの名前が浮かびますが、そのエピクテトスの師にあたるのがムソニウス・ルフス(30年頃〜101年以前)です。本人は著作を残さなかったものの、弟子がまとめた論考や箴言が伝わっていて、本書はその断片集成の本邦初訳です。
公式紹介によると、ムソニウスはネロ帝暗殺計画に加わったとして過酷な追放先ギュアロス島に送られ、その後ウェスパシアヌス帝にも再び追放されるという波乱の人生を送った人物。それでも屈せず名声を高めたといいます。翻訳にはヘンゼによる1905年の断片集成に加え、2026年に出版されたばかりの最新資料「小断片」「小断片・補遺」もいち早く訳出されているとのことで、研究の最前線がそのまま文庫で読めるのは贅沢です。
目次を見ると、「女性も哲学するべきであるということについて」「結婚は哲学することの妨げになるか」「老年にとって最善の蓄えは何か」「食事について」「髪とヒゲを刈ることについて」など、驚くほど生活に根ざしたテーマが並びます。結婚したばかりの身としては「結婚の要点とは何か」の章が気になるところ。2000年前の哲学者が、今の私たちと同じことで悩んでいたのかと思うと親近感がわきます。
- こんな人に:ストア派の哲学に興味がある人、『自省録』や『語録』を読んだことがある人
- 読みどころ:結婚・食事・身なりまで語る、暮らしの哲学としてのストア派
『所有権の誕生』加藤雅信|「みんなのもの」はいつ「わたしのもの」になったか

法学者・加藤雅信さんが、所有権がいかに誕生し、なぜ必要とされたのかを探る一冊です。原本は2001年に三省堂から刊行されました。
ユニークなのはその方法です。所有権は「書かれた歴史」が始まる前に生まれたため、文献から発生史をたどるのは難しい。そこで本書は、文化人類学の知見を手がかりに、所有権生成の論理を法律学の観点から分析するというアプローチをとります。明確な土地所有概念をもつ農耕社会、それがあいまいな焼畑農耕社会、土地所有権が存在しない遊牧社会や狩猟採集社会を比べながら、「土地はなぜ誰かのものになったのか」を考えていきます。
入会権(村の共有地のような権利)や、知的財産権のような形のない財産の権利にも章が割かれていて、モンゴルやネパールの現地調査の話も登場します。学術文庫版のあとがきでは「消費財所有権」についてのノートも公開されているそうです。新NISAで資産形成をしていると「財産」や「所有」が当たり前のように思えますが、その前提を根本から問い直す視点は新鮮です。
- こんな人に:法学部の学生、民法や財産権の「そもそも」を知りたい人
- 読みどころ:法学と文化人類学をつなぐ、分野横断の発想
『競馬の世界史』本村凌二|欲望と文明がせめぎあうビッグレース

古代ローマ史の第一人者であり、長年の競馬ファンでもある本村凌二さんによる競馬の通史です。2016年の中公新書『競馬の世界史』に、最近10年あまりの世界と日本の競馬の動向を大幅に増補した改訂版です。
古代の戦車競走から始まり、イギリス王室の庇護のもとでの近代競馬の誕生、アラブ馬を祖とするサラブレッドの誕生、伝説的名馬エクリプス、フランスでの凱旋門賞創設、アメリカ競馬の最強時代を経て、日本競馬の飛躍まで――。全10章で競馬の歴史を一気にたどります。
本書の軸にあるのは、競馬は王侯貴族の文化であると同時に、人間の欲望を刺激する「賭博」でもあるという視点。八百長や不正の誘惑をどう抑え、公正さを実現するか、競馬場ではその社会の成熟度が試される、という見方は面白いです。私はJリーグ派で競馬は詳しくありませんが、スポーツと社会の関係を考える本として、サッカーファンにも響くテーマだと思います。用語ノートや馬名索引も付いているので、競馬初心者でも読み進めやすそうです。
- こんな人に:競馬ファン、スポーツの歴史や文化に関心がある人
- 読みどころ:古代ローマから現代の凱旋門賞まで続く、スケールの大きな通史
カエデ的・9月の講談社学術文庫の選び方
4冊ともジャンルがはっきり分かれているので、興味のある分野で選ぶのがいちばんです。
- 世界の宗教・文化を知りたい:『クルアーンの世界』
- 古代の哲学を暮らしに活かしたい:『ムソニウス・ルフス言行録』
- 法律や財産の「そもそも」を考えたい:『所有権の誕生』
- 歴史を楽しく読みたい:『競馬の世界史』
学術文庫に慣れていない方なら、読み物としての楽しさがある『競馬の世界史』か、短い論考が並ぶ『ムソニウス・ルフス言行録』から入るのがおすすめです。秋に出た新書の新刊もあわせてチェックしてみてください。

刊行の詳細は、講談社の書籍発売予定表でも確認できます。

まとめ
- 2026年9月の講談社学術文庫は9月10日発売の4冊
- 『クルアーンの世界』:朗誦される聖典が書物になるまでと、その人間観・社会観
- 『ムソニウス・ルフス言行録』:「ローマのソクラテス」の本邦初訳、2026年の最新資料も収録
- 『所有権の誕生』:文化人類学の知見から所有権の起源を探る
- 『競馬の世界史』:中公新書版に最新10年の動向を増補した決定版
宗教・哲学・法学・歴史と、4冊で4つの分野の入口に立てる9月のラインナップでした。気になる一冊を見つけたら、ぜひ文庫棚で手に取ってみてください。それでは、また風読珈琲店でお会いしましょう。
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