こんにちは。風読珈琲店のカエデです。
「大学の先生は、学生にどんな本をすすめるんだろう?」。そんな好奇心を満たしてくれる冊子を見つけました。東北大学教養教育院が発行している『読書の年輪 ―研究と講義への案内―』の2026年版です。教養教育院に所属する(または所属していた)名誉教授など26名の先生が、1人6冊ずつ、計156冊の本を自分の言葉で紹介しています。
PDFは大学のサイトで誰でも無料で読めるのですが、全118ページとなかなかのボリューム。そこでこの記事では、156冊の中から「20代の学生・社会人が今から読んで役立つ」「書店や電子書籍で手に入りやすい」という観点で9冊を選び、先生方の推薦ポイントをかいつまんで紹介します(2026年10月12日時点の情報です)。
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『読書の年輪2026』とは?
『読書の年輪』は、東北大学の高度教養教育・学生支援機構/教養教育院が発行している推薦図書の小冊子です。2026年版は2026年2月1日発行。巻頭言では教養教育院長の滝澤博胤先生が「自らの意思でページをめくり、書籍の中の世界に入り込んで行くことこそ、学びの本質」と書いています。
- 執筆者:総長特命教授6名、その任を離れたOB・OG19名、元教養教育院長1名の計26名
- 紹介冊数:1人6冊×26名=156冊。新書・文庫から専門書、マンガ(『宝石の国』)まで幅広い
- 構成:先生ごとに読書にまつわるエッセイ1本と、6冊それぞれの紹介文。巻末に出版社・価格つきの書籍一覧
- 本棚:紹介本は川内北キャンパス講義棟B棟1階のICLアカデミックラウンジ(B105)で実際に手に取って読める(貸出不可)
面白いのは、紹介文が「あらすじ」ではなく、先生自身がその本とどう出会い、何を受け取ったかを語っている点です。「この本で文章への苦手意識がなくなった」「この本を読んで釣りに親しむようになった」といった個人的なエピソードが多く、ブックガイドとしてだけでなく読み物としても楽しめます。
考える・書く力を鍛える4冊

まずは、レポートや仕事の資料づくりにそのまま効いてくる「思考と文章」の4冊から。社会人3年目の私にも刺さるものばかりでした。
『論理的思考とは何か』渡邉雅子(岩波新書)
進化生物学者の河田雅圭先生の推薦。本書は、アメリカ式(結論を先に述べる効率重視のエッセイ)、フランス式(弁証法的な問答)、イラン式、日本式(共感を重んじる)という4つの作文の型から、論理的思考が文化によって違うことを示します。
河田先生は、日本の学生は高校までは共感型の読書感想文、大学ではアメリカ式の論文作法を求められる、と指摘。「唯一の正しい論理」はないと知ることで、他人の主張がどの型で組み立てられているかを読み解けるようになる、と紹介しています。会議で話がかみ合わないときにも効きそうな視点です。
岩波新書の新刊は毎月まとめて紹介しています。

『NEXUS 情報の人類史』ユヴァル・ノア・ハラリ(河出書房新社)
同じく河田先生の推薦。『サピエンス全史』の著者が、人類をつないできた「情報のネットワーク」が、SNSやAIの登場で新たな問題に直面していると論じる上下巻です。
紹介文では、ミャンマーでFacebookの投稿がロヒンギャへの暴力を助長したとされる例を挙げ、滞在時間を延ばして広告収益を増やすアルゴリズムが、極端な投稿やデマを広めてしまう危うさに触れています。生成AIを毎日のように使う今、いちばん「今っぽい」1冊です。
『理科系の作文技術』木下是雄(中公新書)
動物栄養生化学が専門の秋葉征夫先生の推薦。作文や読書感想文が嫌いだったという先生が、大学院時代に恩師から薦められて読破し、文章への苦手意識がほぼなくなったという1冊です。
事実と意見を区別する、読み手を意識して結論を早めに示す、短くわかりやすい文にする、漢字を使いすぎない──。秋葉先生は、大学や社会では報告書や申請書など「客観的記述」を求められる場面が多いと書いています。理系に限らず、業務メールや報告書を書くすべての社会人に効く本だと思います。
中公新書の最新刊はこちらで紹介しています。

『知的生産の技術』梅棹忠夫(岩波新書)
宗教学者の鈴木岩弓先生の推薦。ノートの取り方や資料整理の方法は、かつては先生や先輩のまねで覚えるしかなかった。そこに一石を投じたのが1969年刊行の本書です。
今では定番のB6判カードによる情報整理法も本書で紹介されたもので、鈴木先生は「PCによる情報整理の思想の原型」も垣間見られると評しています。メモアプリやNotionで情報整理をしている人ほど、その源流を知ると面白いはず。あわせて川喜田二郎『発想法』(中公新書)も基本書として挙げられています。
「研究って面白い」が伝わる理系の3冊

理系の先生方の推薦には、研究者が自分の歩みを語る「読んで面白い」本が多く入っていました。文系の人にもおすすめできる3冊です。
『歌うカタツムリ』千葉聡(岩波現代文庫)
河田先生の推薦で、著者の千葉聡さんは東北大学の教授(2025年時点)。生き物の違いは「偶然」によるのか「選択」によるのか、という進化の大テーマを、カタツムリ研究の歴史をたどりながら描きます。
研究者たちのエピソードを通して物語のように読めるのが魅力で、第71回毎日出版文化賞の受賞作。2023年の文庫化に際しては、河田先生自身が解説を書いているそうです。なぜタイトルが「歌う」カタツムリなのかは、読んでのお楽しみとのこと。
『僕には鳥の言葉がわかる』鈴木俊貴(小学館)
素粒子物理学が専門の日笠健一先生の推薦。街でもよく見かけるシジュウカラが「言葉」を持っていることを明らかにした著者が、子どもの頃から最近までの研究歴を語ります。鳴き声を実際に聞けるQRコード付きです。
日笠先生は、エンタメとして一気に読めるけれど、それだけで終わるのはもったいない、と言います。研究とは誰も答えを知らない問いに数か月、数年をかけて挑むこと。その論証の進め方や落とし穴のヒントが本書のあちこちにある、という紹介は、これから研究を始める学生への的確なアドバイスだと感じました。
『数学の言葉で世界を見たら』大栗博司(幻冬舎新書)
こちらも日笠先生の推薦。理論物理学者の著者が、大学進学を控えた娘に語りかける体裁で、難しい数式をほぼ使わずに数学の考え方を解説します。2015年の単行本を、2025年に新書化した版です。
第1話が確率・統計から始まるのが意外ですが、日笠先生は、メディアで統計的に無理のある主張をよく見かけることを問題視していて、統計的な思考はどの分野でも身につけてほしい、と書いています。ゲーデルの不完全性定理やガロアの話に加え、新書版では生成AIについての話が加わっています。投資のリターンやリスクの話を読むうえでも、統計の感覚は武器になります。
理系の新書をもっと探したい人には、ブルーバックスの新刊紹介もどうぞ。

物語と旅に没頭する2冊

最後は、ページをめくる手が止まらなくなる物語と紀行文。秋の夜長やカフェでじっくり読みたい2冊です。
『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス(新潮文庫)
文学・言語哲学が専門の森本浩一先生の推薦。2024年に文庫化されて大きな話題になったので、書店で平積みを見た人も多いはず。ブエンディア家が創ったマコンド村が、100年後に滅びるまでの数世代の物語です。
森本先生は、幻想的な出来事が次々と起こる「魔術的リアリズム」について、大事なのは「本当らしさ」の中に「驚き」を織り交ぜていく語りのテンポと強度だと解説しています。文学的虚構のお手本、という評価に背中を押されて、積読から引っ張り出したくなりました。
『深夜特急』沢木耕太郎(新潮文庫)
分子細胞生物学が専門の水野健作先生の推薦。若き日の沢木耕太郎が、インドのデリーからロンドンまで乗合バスで行くと決めて旅した記録で、文庫で全6冊です。
名所旧跡はほとんど出てこず、バスを乗り継ぎ、安宿に泊まり、偶然出会った人との出来事が自然に語られるのに、推理小説のように続きが気になる──と水野先生。読むと自分も出かけたくなる一方で、長い放浪には自分を崩してしまう危うさもあると記されている、という指摘も印象的でした。私は長崎への帰省の新幹線で、1巻から読み返そうと思います。
どれから読む?目的別のおすすめ
- レポート・仕事の文章をすぐ改善したい:『理科系の作文技術』
- 議論や会議でのすれ違いを減らしたい:『論理的思考とは何か』
- AI・SNS時代の情報との付き合い方を考えたい:『NEXUS 情報の人類史』
- 研究や学問の面白さに触れたい:『僕には鳥の言葉がわかる』『歌うカタツムリ』
- 数学・統計への苦手意識を減らしたい:『数学の言葉で世界を見たら』
- とにかく物語に没頭したい:『百年の孤独』『深夜特急』
冊子では、水野先生が作家・堀田善衛の「十七歳から二十二歳までの読書が君の人生を決定する」という言葉を引きつつ、「君がもう二十二歳を越えていても、遅すぎるということはない」と結んでいます。社会人の私にとっても励みになる一文でした。
今回紹介したのは156冊のうちのごく一部です。歴史・哲学・農学・医学まで幅広いので、興味が湧いた人はぜひ東北大学教養教育院のサイトで公開されているPDFもめくってみてください。
読書の秋の本選びには、SBクリエイティブの電子書籍セール「秋の本格読書フェア」(10月22日まで)もチェックしてみてください。

まとめ
- 『読書の年輪2026』は東北大学教養教育院の先生26名が6冊ずつ、計156冊を紹介する推薦図書の冊子(2026年2月発行)
- 紹介文は先生自身の読書体験が中心で、ブックガイドとしても読み物としても楽しめる
- 思考・文章系は『論理的思考とは何か』『NEXUS』『理科系の作文技術』『知的生産の技術』
- 理系の読み物は『歌うカタツムリ』『僕には鳥の言葉がわかる』『数学の言葉で世界を見たら』
- 物語と旅は『百年の孤独』『深夜特急』。気になった1冊から手に取ってみよう
大学の先生の「本気のおすすめ」は、やっぱり外れが少ないです。私はまず『理科系の作文技術』を読み直して、仕事の報告書を少しでもわかりやすくしたいと思います。
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